2009年11月アーカイブ

国の光を観る

職場の机の中を整理していたら、こんなメモが出てきた。

     観光・・・tourism, sightseeing ⇒ enlightment

物産担当になったばかりの頃、何をしたらよいのか時間を持て余して書いたのを
思い出した。A4用紙の裏面に、フェルトペンで大きな文字で記されている。

この時期、業務初任者ということで、いくつかの観光に関するセミナーに出席した。
講師の開口一番は共通して「観光」の語源だった。

  ・・・中国の儒教の経典である『易経』の「観國之光 利用賓于王」、
    「国の光を観る、用て王に賓たるに利し」との一節による・・・

とのこと。確かに国の光を観るんだろうが、それで何っ?という素直な印象が冒頭
のメモに至ったと記憶している。

光を観る(sightをseeingする)のは旅行者の立場、物産という面からではあれ観光
の振興に携わる者であれば、光(light)を当てることが仕事ではないか。正確な
英語の意味は知らないが、自分が行うべきなのはsightseeingに加えてenlightment
だと思い、今日まで仕事を続けている。

そんななか、味や宣伝の文句とは対照的に、観光でもこの「光」は結構おざなりに
されているように感じている。

観光スポットでも、ちょっと評判が良いとここぞとばかり観光客を送り込む。物産展
でも話題の商品は引く手あまただ、一時的に。何となく昨今のお笑い人気で入替
わりが激しい芸人の使い捨ての状況と重なる。

たとえ短い期間でも、強い光を当て過ぎればすぐに色褪せる、そんな例もここ数年
で何度となく傍観してきた。

haruna-illumination.jpgところで、いま高崎の街なかでは恒例の「光のページェント」が夜のメインストリートを
歩く人々の目を楽しませている。また来月には「榛名湖イルミネーション」が始まり、
開催を前に早くも話題となっている。

街や自然に普段と異なった光を当てることで、見慣れた風景が持つまた違った魅力が
表出する。そんな潜在的で、時に繊細でもある魅力を掘り起こし、持続して伝えていく、
まさに街の光を魅せていくことは、私たち観光に携わる者の永遠の課題かもしれない。


◎群馬県観光国際協会バスツアー
 『クリスマス・スイーツと天空のイルミネーション』(12/12、19、23開催、4,500円)
 ガトーフェスタ・ハラダ~パリの朝市~榛名湖を巡れるお得なコースです。
 詳しくは同協会(℡027-243-7273)へ
 

内田百閒の沢庵

インドア派の担当者の休日の楽しみは、新聞の読書欄の読み比べ。購読している
2紙に加えコンビニで2~3紙買い込んできてじっくり眺めている。

ブームなのか、ここのところ内田百閒 (1889-1971)を薦める記事を数紙で目にした。
そんな訳でさっそく購入したのが中公文庫から出ている「御馳走帖」。

百閒は夏目漱石門下の独特なユーモアの書き口で知られる小説家で随筆家。
多数ある著書の中でも特に随筆は今でも多くのファンを獲得しており、「御馳走帖」
は百閒の幼少時代からの食の回想録である。

シュークリームやカステラなど、戦時の食糧難の時期の甘味への憧れを綴った文章
など、いまの飽食の時代にあっても読者に幸福な空腹を催させる。

このブログを始めてから、何かネタにならないか、と嫌らしい読書をしてしまうのだが
期待どおりそんな一節「沢庵」に出会えた。

  沢庵の色は、黄色が黒ずんで、その上に皺があつて、皺の中がよごれてゐて、
  ・・・しかし御飯の時、最後までおかずを食べると、行儀が悪いと云って叱られる
  のでお茶漬けには、さう云う色のおかうこを、かりかり食つた。

  東京に出て来てから、沢庵がまるで違ふので驚いた。色は鮮やかであり、切り目
  には光沢があつて味も甘いから、一どきに沢山食つた。しかし段段にその色や
  味の正体が解つて来るにつれて、昔お梅乞食が貰つて行つた様なおかうこが
  食べたいと思ふ事があつた。

岡山出身の百閒にとっても、当時の都会の沢庵には抵抗があったようだ。

私の実家もこの時期になると庭先に太くて真っ白で少々不恰好な大根を干していた。
冬の風物詩・上州の空っ風でほどよく乾燥させた大根を樽の中に規則正しく並べ、米
ぬかやトウガラシ、柿の皮など混ぜて漬け込んでいく作業を、楽しみに手伝ったもの
である。時々恋しくなるそんな沢庵に、残念ながらアパート近所のスーパーでは、まず
お目にかかれない。

そんななかで昨年、買っても食べたい、と思える沢庵を見つけた。新栄物産さんの
「十文字大根のたくあん」がそれ。榛名山麓の十文字地区では高品質な大根が収穫
でき、昔ながらの手順で漬け込み商品化している。同社社長の高橋さんによると、
5年ものの古漬け沢庵もあり人気だとのこと。

takuan.jpg遠い沢庵の記憶がある方にとっては、とても有難い一品といえそうだ。この十文字の
沢庵は百閒と同じく勿論お茶漬けにも最適だが、パスタの材料にも使える。

パスタと同じくらいの細さに刻んだ沢庵を好みの量、茹で上がった麺に載せ、パスタ
の茹で汁、又はだし汁で和えるだけ。好みで白ゴマやちりめんじゃこ、沢庵と同じ位
の細さに切った大葉やカリカリ梅を散らしても良い。

見た目に反してとても繊細な具材でもあるので、個人的には刻み海苔やしょう油を
かけるのはお薦めしない。

この沢庵パスタ、麺の蒸気に温められた具材からはゴルゴンゾーラ・チーズにも通じる
なんとも淫靡な香りが漂う。興味のある方は、ぜひお試しを。目を閉じてパスタを頬張り
深呼吸すると、口腔から鼻孔にかけて魅惑の芳香が心地よく抜けていく。

郷愁を誘う味、とはこういうのを言うんだろうな。


◎(有)新栄物産
 高崎市本郷町2093
 ℡ 027-344-4646

americandog.JPG

1日目昼食:名物水沢うどんと季節の野菜の揚げたて天ぷら、
        上州産きのこの炊き込みご飯
    夕食:郷土料理の和食膳、上州すき焼きへのグレードアップ可
2日目朝食:お部屋にて朝粥と地元手作り湯豆腐
    昼食:人気の道の駅にて、人気の白玉ぜんざいか味噌おでん選べます

大手旅行会社が企画した県内温泉旅館1泊2日商品の行程から、食事の部分を
抜粋したものである。他社商品でも、夕食が県産豚料理だったり、名物のおっきり
込みだったり、と大差はない。

タイトルの「高速道サービスエリアのアメリカンドックはなぜ美味いのか?」だが、
この例を見ていただければお分かりいただけるように、洋食、というより和食以外が
食べたくなるから、である。

米飯食推進団体の幹部や十数年来の日本旅行の夢を果たしたコテコテの外人で
もなければ、ジャンキーであれ趣向の異なるものを口にしたくなるのは当然の欲求
となる。

事実、先日あるサービスエリアで我々の隣に停車中の貸切バス車内では、ご年配の
紅葉見物帰りの観光客が数組、買ったばかりのアメリカンドッグに噛り付いていた。
「なんかホッとするわね・・・」そんな会話が聞こえてきそうでもあった。

そこで提案したいのが、「ついでに高崎パスタ」である。

高崎の観光スポットとして、観音山や榛名湖などが挙げられるが、最終目的地という
より草津や水上、伊香保といった温泉の帰り等で立ち寄るケースが多いようである。

北陸新幹線の延伸や北関東道の整備により、本市の利便性や"ついで傾向"はより
高まりそうだ。

そこで強力なセールスツールとなるのが、高崎の新名物・高崎パスタの存在だ。

市内には高崎産野菜を使ったお店や団体受入OKのお店も多い。夕食の純和食と
同じ食材のまた違った味わい、可能性も美味しく実感できるはず。

また、味噌やしょう油、かつお出汁ベースの料理が数回続いた後には、オリーブオイル
とニンニクの香りは味覚のオアシスのように感じられるに違いない。そして、そのごく
些細な印象はいずれ高崎という街のイメージになる。

実はこのプランには自信がある。春先に、千葉の旅行会社から築地の奥様方のツアー
で県内温泉の後に高崎を通るが、どこかおすすめの料理はないかと相談を受けた。
人数と2日間のプランを伺い、市内のパスタ店を紹介したところ、後日特に高崎での
食事が好評だったとの電話をいただいた。

「温泉帰りに、ついでに高崎パスタ」。
大型バスと団体客の対応が可能なお店をリストアップするだけで実現できるだろう。

takarakuji.JPG年末ジャンボ宝くじが、本日全国で一斉発売となる。

この週末に山梨県の宝くじ売り場でたまたま高崎の物産に遭遇した。
以前にもこのブログで紹介した、荻原正雄さんの工房、通称「ねこや」の
張子の招き猫である。

写真はその売り場で撮影したものだが、予期せぬ出来事に嬉しくなり、
販売していたお母さんに「これ、うちの町で作ってるんです」と暫く立ち話。
傍目には相当期待と気合の入った購入者に見えただろう。

今回のブログアップにあたっては、その時に撮った招き猫を横に売り場の小窓
から満面の笑顔でピースするお母さんの写真を掲載しようか迷ったが、止めた。

ちなみにこの招き猫、見るたびに少し前までマスコミにたびたび登場していた、
あの元宝塚出身のファーストレディに似てると思わせるのだが如何だろう。
特に、9cm大の最小サイズは酷似している、と個人的に感じている。

あの方、この夏の衆院選の後、お決まりの高崎産の選挙だるまの目入れの時、
目だけでなくてお腹に金色で「V」の字を入れていたのをスポーツ紙で見た。
荻原さんの工房の近所で作られただるまだと思われる。多くの方にはどうでもいい
話だが。

manekineko w b.JPG荻原さんの工房をはじめ、高崎のだるま職人はこの時期、だるま作りがピーク
を迎えている。その忙しげな光景は、この土地で数世紀変らない冬の風物詩
でもあるが、そんな中で今年は特に注目を集めている創作だるまがある。

先週月曜日の日本経済新聞地域総合面で紹介された「干支だるま」。
老舗だるま店「大門屋」さんの若手職人の高林さんが以前から個人的に描いて
いたものだが、同紙で取り上げられるや全国から問合せが殺到しているそうだ。
12cm1,000円と家庭用サイズだが、大手百貨店からの大口注文もあったとのこと。

etodaruma.jpg張子の十二支の中でも、寅年は特に売れ行きが良いらしい。
囲舞達磨本舗さんの「招き寅」は荻原さんの招き猫の型を使い、独自のデザイン
を施したもので、9月に読売新聞社会面コラムで紹介されて以降、やはり注文が
途切れないそうだ。

manekitora.jpg今年も残すところ僅かとなってきたが、振り返ると不安を煽られる出来事ばかり
の一年だった。そんな年末、1枚300円の宝くじに思いを託す人たちが早くも行列
をなしている。

これから宝くじを買おうという皆さん、当選の願掛けに高崎だるまを購入しては
いかがでしょうか。宝くじ数枚の値段で、招福の縁起物が買えますよ。

人気の宝くじ売り場には、「○等×本出ました」なんて大きく書かれた張り紙が
あるが、「うちの工房のだるまを購入した方から一等が出ました」みたいなこと
が起こったら、縁起物冥利に尽きるだろう。

そんな、夢のまた夢を目論む物産担当者である。


◎ねこや 荻原正雄
 高崎市下豊岡町40-1
  ℡ 027-325-1018

◎大門屋
 高崎市藤塚町124-2
 ℡ 027-323-5223
  http://homepage2.nifty.com/daimonya/

◎囲舞達磨本舗
 高崎市上豊岡町74-8
  ℡ 027-325-8894
  http://imaidaruma.com/index.html

魅力ある日本のおみやげ

今週末の群馬交響楽団定期演奏会には、首席客演指揮者のマルティン・トゥルノフスキーが
来演する。

トゥルノフスキーは1928年生まれのチェコの指揮者。若手指揮者の登竜門であるフランスの
ブザンソン国際指揮コンクールで1958年に優勝後、チェコ屈指の指揮者としての評価を得る
(小澤征爾もその翌年に同コンクールで優勝している)。チェコ・フィルやプラハ交響楽団との
積極的なレコーディングや国外への客演を行い、1966年には名門の東独ドレスデンの国立
歌劇場の音楽総監督に就任している。

順調だった彼のキャリアだが、1968年のソ連によるチェコ侵攻「プラハの春」により祖国を
離れることになり、ドレスデンのポストも政治的理由で解任される。その後は活動を西側に移し、
ニューヨーク・フィルやベルリン・ドイツ・オペラをはじめ、世界有数の楽団と共演。
再び祖国の土を踏んだのは1989年のビロード革命後である。群響への初客演は1995年で、
以来ほぼ毎年高崎の舞台に立っている。

80歳を越えるというと、世界的にも最高齢指揮者と言えそうだが、晩年のカラヤンや朝比奈隆が
その異常な人気の一方で老人の長風呂のような緩みがちな演奏だったのに対し、トゥルノフスキー
はここ数年、円熟味とともに若々しさも増しているように感じる。

彼が創る音楽の特徴は誇張の無い折り目正しさ、いわば楷書体の構成美。

この国でもてはやされがちな過度な感情移入は期待できない。考えてみると、ライブでの一見
名演は、端正な好演より簡単なのではと思える。例えばチェコの名曲「我が祖国」にしても、最後の
10数小節を必死に大音量でやれば、その場は盛り上がる。オペラ「蝶々夫人」でも日本的情緒を
強調した演出が歓迎される。また、ここ数年、重病人のような格好の女性ピアニストが人気だった
りする。でも、目を瞑って聴いてみたり、または演奏を振り返ってみると、意外と何も残っていない。
トゥルノフスキーの音楽は、そんな軽薄な演奏の対極にあり、聴き込むほどにヨーロッパの音楽的
土壌を感じさせる、滋味溢れる音楽である。世界的に躍進が目覚しい日本人演奏家たちにとって、
最も真似できないタイプの芸術家だろう。

私がはじめてトゥルノフスキーの実演に接したのは、群響初客演の時。
当時、習い始めたばかりのチェコ語で書いた手紙を持って終演後の控え室に伺ったが、帰国後
すぐに返事が届いた。

その後も、極東の誰とも分からぬ青年に、私家盤のCDやカセットテープなど、チェコ音楽を指南
すべく送ってくださったのが懐かしい。日本では知名度が低いボフスラフ・.マルティヌーの魅力は
トゥルノフスキーを通して知った。
数年後、群響がこの作曲家の作品を取り上げたときは「君がリクエストしたから」と、冗談かもしれ
ないが紳士的におっしゃっていた。

今回の群響の公演では少々ベタな名曲ばかりなのが残念だが、新音楽監督が就任後になろう
次回は意欲的なプログラムになることを期待したい。

高崎でのトゥルノフスキーだが、毎回必ず奥様のズデンカさんも来日している。ズデンカさんは20世紀
を代表するピアニスト、イヴァン・モラヴェツの妹で、自らもプラハ音楽院の指揮科を出ている。
夫の練習中には、時には客席から意見し音楽作りの二人三脚ぶりを見せるが、お気に入りのスズラン
百貨店での買物を楽しんでいるのもよく見かける。

以前にプラハでのコンサートに伺った際、ズデンカさんが日本で買っていった緑茶をとても喜んでくだ
さった。以来、高崎でお会いするときも緑茶のお土産を定番にしている。
仄かな甘さが香る日本茶を嗜むマエストロ夫妻、なんとなく彼の芸風にとても合っているようで、
想像すると微笑ましい。


yajimaen.jpg◎牧の原銘茶 矢嶋園
 高崎市下豊岡町140-6
  ℡ 027-323-2836
  http://www.just.st/?in=303650
  写真は産地で選別前の香り高くコクと甘みが特徴の深蒸茶・創始銘茶『本造り』

フランス料理の学び方

先日のブログでも予告した自らのワイン解禁日以来、フランスからスペイン、
さらには南アフリカと、我がテーブルワインの旅も大航海時代に突入した。
今夜には南米のチリかアルゼンチンあたりに漂着するだろう。

ワイングラスを傾けながらの読書も進む。自宅の本棚から、酒・料理に関して
少しアカデミックなものを読んでみようと手に取ったのが辻料理師学校創始者の
辻静雄氏が書かれた『フランス料理の学び方』。

フランス料理の普及と人材育成に全身全霊を傾けた同氏が、フランス料理を
学ぶ人向けに料理の要点や歴史と技術の継承についてまとめたもので、
長く復刊が待ち望まれていたが最近、中央公論新社から文庫化された。

同書で印象に残ったのが、辻氏がサミュエル・チェンバレンから学んだ言葉
・・・料理を研究するのに、ただ作り方を勉強するだけでは意味がなく、材料は
どんな地方でどう作られているか、あるいはその地方の歴史的な風習や田舎の
人たちの生活の歴史を知った上でなければ、料理の真髄は把握できない・・・
フランス料理という枠を越えて、この物産の業務にも通じるような気がする。

実は今回の文章は当ブログの貴重な閲覧者の島崎さんを意識して書いている。
島崎さんは県立近代美術館近くのフレンチレストラン「パリの朝市」のシェフ。
このブログを見ていただいた後に、修正点等ご指摘の電話がかかってくるような
気がするが、島崎さんはまさにチェンバレンを実践しているような方だ。

群馬県観光国際協会主催の人気バスツアー「たかさきスイーツめぐり」や、
これから実施される同「クリスマス・スイーツと天空のイルミネーション」でも、
島崎さんはその腕前を存分に発揮、参加者アンケートでも高評価だ。
ツアー時の料理は、同店ブログでも紹介されているので、ぜひアクセスを。

そんな島崎さんが、同店を会場に11~12月の毎週月曜にクリスマス・スイーツの
料理教室を開くとのこと(1回3,000円、電話予約受付中)。

地場産食材を確かな伝統の技術でフレンチの一皿に仕上げてしまう島崎さん。
きっと楽しい教室になることだろうし、平易な説明の節々にも、フランス料理の
エッセンスが詰っているはずだ。

余談だが、同店ブログの最近の記事に出ていたボルドーのCh.Gruaud Larose89、
ワインに興味を持ち始めた頃、高崎髙島屋のワインアドバイザーに薦められて
購入した覚えがある。しばらく自室で保管していたが、懐具合が厳しいときに
誰かの手に渡ったと思われる。

島崎さんにこのヴィンテージ・ボトルの印象を伺ったところ、初日は寝かせ過ぎで
古びた感じだったそうだが、2日目には華やいだ香りが戻って来たとのこと。
「ワインは作って2日以降のカレーやおでんと同じ気がします」と、俄か仕込みの
ワインファンには出てこない一言を聞いた。

そう、同店のワインコレクションも凄いらしい。朝市さんのセラー見学、島崎さんの
ことなので相当時間がかかること覚悟だが、一度体験してみたいところ。

paris 3.jpg◎レストラン・パリの朝市
 高崎市岩鼻町241-10
  ℡ 027-347-4765
 http://www4.ocn.ne.jp/~paris/

閑雅な新酒解禁日

新酒の話題に心が弾む。

市内唯一の酒蔵の牧野酒造さんでも、先週から杜氏が入蔵し、新酒の
仕込みが始まったそうである。

また、来週の第3木曜日はボージョレの解禁日。日付けが変わると同時に
開催されるワインイベントの模様がまたテレビ等で伝えられることだろう。

あまり知られていないが、今日11月11日は「聖マルティンの日」。中欧の小国
オーストリアではその年にできたワインが解禁となる。

同国の首都ウィーンWienの語源はワインを表すWeinという説があるほどで、
郊外の丘には葡萄畑が広がる。

田園交響曲で知られるベートーヴェンがこの名曲を完成させたのもウィーン。
当時の彼の住まいは、葡萄畑に囲まれたハイリゲンシュタット地区Heiligenstadt
に残っており、彼の遺品を展示した小さな博物館となっている。

この周辺には自家製のワインを家庭的な料理と楽しめる酒場・ホイリゲが
点在する。引越し好きのベートーヴェンが最晩年に第九交響曲を書いた家は、
同博物館から数歩のところにあり、現在はマイヤー・アム・プファールプラッツ
Mayer am Pfarrplatzという名のホイリゲとして観光客の人気スポットである。

ホイリゲではビュッフェ形式で自分の食べたい料理を選び、席に着くと小さな
ジョッキに注がれた甘口の白ワインが運ばれてくる仕組み。口あたりが良いので
いくらでもいけてしまい、席を立つときの足元の心もとなさから飲んだ量に気付か
される。

過去数回の中欧への一人旅の際はホイリゲ巡りを楽しんだがプファールプラッツの
居心地が一番良かった。

最近訪れたのが5年前。ちょうどこの聖マルティンの日の18時の解禁時間に合せて
だった。

日本のボージョレ騒ぎを知る者としては、地元客らで混むのだろうと思い早めに
出かけたのだが、予想に反し客らしき者は誰もいない。この日の慣わしなのか18時を
知らせる教会の鐘とともに幼稚園児らのランタン行列が薄暗くなった小路をゆっくり
通り過ぎ、そんな幻想的な世界に浸っているうちにホイリゲにも灯りがついた。

肩透かしを食らった感じだったが、ホイリゲでは新鮮な酸味の残るワインとともに
ゆったりと過ごすことができた。BGMが流れるわけでもない店内なのに、食器や
ワインを運ぶ音が時折心地よく響く。帰るころには数組の地元客らしきグループの
姿があり、キャンドルが燈されたテーブルで物静かに歓談していた。

この国では、そんなふうに新酒の解禁日を迎えている。何か羨ましい。そして、
この光景はいつまでも残ってほしいと願う。

この時間、ウィーンではちょうど朝を迎える頃。ハイリゲンシュタットのホイリゲの
厨房では、あと少しすると夜の仕込みが普段と変わらず淡々と始まる。

heurige2004.JPG人間ドック結果の通知が届いてから自粛していたワイン、今日は解禁日にしよう。
何と合わせようか・・・。

以下、おすすめのワインのお供です。
・もぎたて完熟屋  倉渕もち豚のハンバーグ、榛名梅育鶏の唐揚
・JA高崎ハム      上州味紀行シリーズ ハム・ソーセージ等種類豊富
・ミートODA          とろチャーシュー
・群馬のキムチ・ハマンチョ 上州麦豚使用の煮豚ポッサム  

残したい壁

「お婆ちゃん落語」で戦後の落語界で人気を博した先代の古今亭今輔は、
修行時代からその抜きん出た才能で頭角を現したそうだが、噺に熱が入って
くるとつい故郷の群馬訛りが交じり、客席から野次が飛ばされたこともあった
という。江戸落語といえば"粋"が命であり、一瞬の上州弁は寄席を白けさせる
のに十分だったのだろう。

一方で、先月亡くなった三遊亭円楽のレパートリーでもあった古典の『百川』の
主人公・百兵衛に象徴されるように、田舎から出てきた者は噺の中でしばしば
コミカルに描かれることが多く、訛りや方言が噺の展開の重要な要素ともなる。

昨日、NHKで円楽さんの追悼番組が放送されていたちょうどその頃、私は仙台・
国分町の「東方落語・定期寄席」にいた。

yose.JPG杜の都の繁華街の路地にある小奇麗な料理屋の2階で毎月第2日曜に開かれる
この寄席はユニークだ。東方落語の家元・今野家東師匠の一門が、生粋の(?)
「東北弁」で高座に上がる。

この寄席は地元でも相当人気のようで、先週チケット完売を知りつつ事務局に
「群馬から行いぐんだけど」と『百川』の百兵衛よろしく電話したところ、「んだら
ヂゲッド一枚とっどぎますがら」とご配慮下さった。そんな無理なお願いが嬉しく
中村染工場さんの「だるま手ぬぐい」を噺家さん分差し入れした次第。

昨今の全国的な落語人気もあり、関東のTV番組でも大阪の上方落語が紹介
されることがあるが、私には何となくその派手派手しさに抵抗があり、終りまで
聴けることは少ない。また、江戸落語を関西の人がどれほど楽しんでいるかは
知らない。

初めて聴く東方落語は、開口一番の大喜利の時など洋画を字幕無しで観る位の
内容の理解で苦労したが、次第に東北独特の鼻母音が心地よくなり、トリの家元
の時には気付くと涙が出る程笑っていた。お馴染みの『饅頭怖い(おっがねぇ)』
をここまで聴かせる家元の腕は凄い。いぎなりおもしぇがった(とても面白かった)。

また、同じく東北弁漫才の「なにも・かにも」の二人は、先日あのM-1グランプリに
参加したそうだが、結果は予選落ち。東北訛りは審査員らに完全にアウェイ状態
で、「言葉の壁」を強く感じたという。

壁といえば、今日11月9日は東西冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」が崩壊して
ちょうど20年目の日にあたる。当時の期待とは逆に、旧東独での所得格差や
雇用問題は深刻らしい。そんな中、旧東ベルリンでは冷戦当時を題材にした
風刺演劇が人気だという。

話を日本に戻すと、ここ数年のお笑いブームにより、ほぼ何時でも東西の芸人が
どこかの局に出演している。ここ群馬でも、通学中の小学生が普通に関西弁を
真似していたりする。

さすがにこの国には目に見える東西の壁こそ無いものの、20年前では考えられ
ない現象だろうし、そんな言葉の無国籍化は多分大人の想像以上の速さで進行
するに違いない。

でも、土地土地の魅力ある文化の将来を考える時、残しておきたい「壁」もある
ような気がする。そんなことを、この2日間ぼんやりと思っている。


daruma-tenugui2.JPG◎中村染工場
 高崎市常盤町40
 ℡ 027-322-5202
 http://www.nakamura-some.com/

高崎の味

takasaki.jpg   厳密にいえば、どこでもそうなのだろうが、高崎と聞いて思い浮かべる
   酒や食べ物の味も、高崎という町の土地柄や人気と直接に関係があり、
   むしろそこから生じたものであるように思われる。

   今では風土の一部になっている高崎という町で我々を喜ばせてくれるもの
   の味には、この町と同じ新鮮な落ち着きとでも呼ぶ他にないものがあって、

   恐らく、高崎のようにパンがうまい所は日本中になくて、パンがうまいという
   ことは高崎の味というものの性格をよく表している。パンは西洋から来た
   もので、それでいて高崎のパンはそれがうまいということの他、何も考え
   させないし、そしてパンというものはパン屋さんに行って手軽に買えるもの
   なのである。
   
   この少しも気取っていなくて、そんなことは一切省いて我々をただ充分に
   満足させるという特徴が、例えば高崎の西洋料理の味にも見られる。

   この辺の牛肉がうまいのと同じことだろうか。牛肉もそうもったいを付けて
   食べるものではない食べものの一つで、それがうまければ、これは本当に
   うまいのである。

   一口にいえば、高崎の味は高崎の町のように明るくて、その明るさにけば
   けばしいものがないということになるかもしれない。
   高崎の人間からしてそうなのである。

 

一昨日、大手旅行雑誌の記者から「高崎パスタ」と「高崎のスイーツ」の背景について電話
問合せを受けた。伝統的に小麦食文化が浸透していて・・・、と簡単に答えたくはなかった
が、いま一つ納得いく回答ができなかった。

上のように答えられたら良かったな、と今になって思う。

ちなみに、上記の文は吉田健一氏の著書『酒肴酒』から「神戸の味」という随筆の、
「神戸」を「高崎」に換えたものである。

 

料理の三角形

vegitable garden1.JPG

「レヴィ・ストロース氏死去」とのニュースが今朝の新聞各紙のネット速報に
掲載されている。

世界的大手ジーンズメーカーの創業者名をフランス語読みした名の同氏は
20世紀を代表する思想家で文化人類学者。100歳を越えても頭脳の
明敏さは相変わらずだったとのこと。

その功績等については多分、あしたの朝日新聞の『天声人語』あたりで
コンパクトに読むことができるだろうからそちらに譲ろう。

大学3年の時に文化人類学のゼミに籍を置いたことがある。
理由は記憶にない。担当教官から研究テーマの選定を指示されたとき、
レヴィ=ストロースの「悲しき熱帯」にしたいと伝えたところ、「時代遅れ」の
一言で一蹴された。

以来、そのゼミではモチベーションが上がらず、ゼミ内でも電話連絡網以上の
人間関係は築けずに一年を過ごした。

当時はレヴィ=ストロースもいろいろ読んだが、今でも覚えているのは、料理を
食材ごとにナマのもの、火にかけたもの、腐らせたものという形態にあてはめて
対比させる「料理の三角形」くらいである。

この分類法を受けたものに、エッセイストの玉村豊男氏の初期の著作「料理の
四面体」があり、卵や大豆などを使った世界中の料理を独自の図式にあてはめた
解説にはレヴィ=ストロースのような難解さがなく楽しい内容となっている。

先週、当協会に入会した前橋の「VEGETABLE GARDEN」の益田智徳さんとの
話の中で、この玉村氏の話題で盛り上がった。

長野県の東御市に玉村氏の農園レストラン兼ワイナリー「ヴィラデスト」がある。
4年前、当時数ヶ月先まで予約でいっぱいのこの季節限定のレストランに行った。

カルヴァドス(林檎のブランデー)でのソースの香りつけなどその後自分でも
取り入れている調理法にも出会えたが、自家農園で収穫された大根の料理には
正直面食らった。

仏語の料理名はメモしなかったが、ぶり大根の時くらいに厚く切った根菜を下茹でし、
薪ストーブの炭に放り込んで軽く焼き上げたもの。ここ群馬でさえそんな食べ方を
見たことがなかった。

素材の持ち味を活かした純朴な料理、と言えなくもないが。後ろのテーブルには
娘夫婦とその両親と思われる家族がおり、多分世田谷か板橋あたりからこの日を
楽しみに訪れた様子。母娘は熱心な玉村さんファンのようだった。

そこから聞こえてくるお父さんの言葉「こんなもん食えない・・・」。周囲を気にしながら
必死に教え諭す他3人。道を誤り出家した家族を必至に連れ戻そうとする父親の
ような悲痛な声に、私もデザートスプーンを握る手に力が入った。
行楽シーズン、信州の玉村さんの農園は千円高速効果も手伝い、あの時の家族の
ような方々で賑わっていることだろう。

さすがにこの話は益田さんにはできなかったが、野菜や果物などヴィラデストの
魅せ方の上手さでは意見が一致した。でも、益田さんの野菜の見せ方だって凄い。
そのひた向きさやテクニックはそれ以上だと感じる。

野菜ソムリエでもある益田さんは前橋の住宅街で「一品香」という上海料理のお店を
経営、素材の持ち味や容姿を活かしたセンスの良い料理は静かな話題となっている。
また、「VEGETABLE GARDEN」として最近高崎髙島屋の催事にも出店、バイヤーにも
好評で1月と3月の催事参加も打診されている。
これが野菜?とも思わせる花束(野菜束)やアレンジの籠盛りは見るものを驚かせる。

vegitable garden2.JPG 今年になってから、当協会の新会員には野菜生産者が多いが、産品の売り方、
見せ方もさまざまだ。敢えて分類すると「すっぴん系」と「完璧メイク系」。

天日干しの「はんでえ米」や朝採りの泥付き野菜を販売する「倉渕んまい会」さんは
すっぴん系の代表格。野菜ソムリエやデザイナーが野菜の新しい食べ方を提案する
「たかさきベジフル倶楽部」さんや益田さんは完璧メイク系と言えるだろう。

相対するようだが、共通するのは地元の野菜の可能性を最大限に伝えようとして
いる点。あの手この手の地域産品のブランド化に方策がめぐらされる中、高崎の
野菜ビジネスの今後の展開に期待が高まる。

すっぴんと完璧メイクのコントラストををテーマとして、この機会に、学生時代の思いを
果たすべく「物産の三角形」なる論文にでも着手しようかとも思うが。
やはり時代遅れの感も否めない。

◎参考書籍
 レヴィ=ストロース『悲しき熱帯〈上・下〉』 (中央公論社1977年)
 玉村豊男     『料理の四面体』(鎌倉書房1979年)

◎一品香・VEGETABLE GARDEN
 前橋市石倉町5-17-5
  ℡ 027-289-0560
  http://www.dan-b.com/ippinko/